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マリリン・ロビンソン『ハウスキーピング』解説あらすじ

マリリン・ロビンソン
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始めに

マリリン・ロビンソン『ハウスキーピング』解説あらすじを書いていきます。

​背景知識、語りの構造

ロビンソンの作家性

 ロビンソン自身、インタビューなどで19世紀のアメリカ文学から多大な影響を受けたと語っています。ロビンソンはメルヴィルの持つ、人間の内面や世界の深淵に迫る壮大なビジョンに深く共鳴しています。ロビンソンの静かで内省的な語り口には、エミリー・ディキンスンの詩世界に通じるものがあります。ソローの自然との対話や、社会から一歩引いた視点で物事を見つめる姿勢は、ロビンソンのデビュー作『ハウスキーピング』などにも息づいています。またロビンソンはエマーソンのように、人間の可能性に対してある種の楽観主義や深い信頼を持っています。


​ ​ロビンソンを語る上で、宗教的なバックグラウンドは外せません。彼女の代表作『ギレアド』四部作は牧師の家系を舞台にしており、その根底には深い神学の知識があります。ロビンソンはカルヴァンの思想を深くリスペクトしています。ジョナサン・エドワーズはアメリカ初期の清教徒の神学者で、彼の説教に見られる本質に迫る、激しい炎のようなシンプルさが、彼女の文章のシンプルかつ厳かな美しさに繋がっています。


 彼女の文章の味わいやリズムは、聖書の文体に強く影響されています。登場人物たちが不条理な苦難に直面したとき、聖書の言葉を引用しながら思考を深めていくのが彼女のスタイルの特徴です。


 ロビンソンはワシントン大学で英文学の博士号を取得していますが、その時の博士論文のテーマがシェイクスピア(『ヘンリー六世 第2部』)でした。彼の卓越した言語感覚や人間ドラマの描き方は、彼女の文学的土台を支えています。

タイトルの意味

​ 物語の根底には、常に圧倒的な喪失の感覚があります。姉妹の祖父は列車の脱線事故で湖に沈み、母親は車ごと湖に飛び込んで自殺しました。ロビンソンは、亡くなった人々を単なる過去のものとしてではなく、不在という形で、今もそこに強烈に存在しているものとして描いています。残された者たちは、その失われた人々の記憶の影の中で生きていくことになります。


​ ​一般的な意味での「ハウスキーピング」とは、家を掃除し、整理整頓し、社会の常識に沿ったまともな家庭を維持することです。しかし、叔母のシルヴィーがもたらすハウスキーピングは、それとは真逆のものです。​家の中に風や葉っぱを招き入れる。​明かりをつけずに暗闇の中で過ごす。​野良猫を家の中に住まわせる。​シルヴィーにとっての家事とは、「家の中(文明・社会)」と「家の外(自然・荒野)」の境界線をなくしていくことでした。

成長譚

 姉妹のルースとルシルは、成長するにつれて異なる道を選び、これが作品の大きな対比となります。​妹のルシルは町の一般的な人々の視線を気にし、まともな服を着て、学校に馴染もうとします。シルヴィーの奇妙な生活に耐えられなくなり、最終的には社会の枠組みの中へと去っていきます。​姉のルースはシルヴィーの、どこか浮世離れした放浪者としての生き方に惹かれていきます。物にしがみつかず、境界線のない世界に身を委ねることに、一種の救済を見出します。


​​ 作中に登場する大きな湖は、生と死、過去と現在を隔てる境界線であると同時に、すべてを飲み込む自然の象徴です。町が洪水に見舞われるシーンに代表されるように、この小説では確固たるものが水に溶けて曖昧になっていくプロセスが繰り返し描かれます。それは恐ろしくもありながら、同時に人間を縛り付けるルールからの解放でもあるのです。

物語世界

あらすじ

 物語の舞台は、アイダホ州にあるフィンボーンという小さな町。この町は、底なしの深い湖に隣接しており、物語全体を通して「水」が重要な存在感を持っています。


​ ​物語の語り手であるルースと、その妹ルシルは、幼い頃に両親を亡くします(父は失踪、母は車ごと湖に飛び込んで自殺)。姉妹は祖母に引き取られますが、祖母もやがて亡くなり、二人は二人の叔母に短期間預けられた後、最後に叔母のシルヴィーが町へやってきます。


​ ​シルヴィーは非常に風変わりな女性でした。彼女は長年放浪生活を送ってきたため、一般的な「家事(ハウスキーピング)」の概念が欠落しています。​部屋には落ち葉が入り込み、戸棚は空っぽで、夜は明かりもつけずに暗闇で過ごす。​彼女にとって家は守るべき拠点ではなく、風や自然と繋がっている、一時的な場所に過ぎません。


​ ​シルヴィーの型破りな生活に、姉妹はそれぞれ異なる反応を示します。​妹のルシルは、学校や社会に適応しようと努めます。まともな服を着て、まともな食事をし、社会に溶け込みたいという切実な願望を持ち、シルヴィーの奇異な行動を恥じ、次第に家庭を離れていきます。​姉のルースは、社会の規範になじめず、シルヴィーの持つ境界のない世界に安らぎを見出します。


​ ​周囲の大人たちがシルヴィーを子供を育てるには不適格だと見なし、社会的介入を試みる中、ルースとシルヴィーは追いつめられます。最終的に、二人は家に火を放ち、町を捨てて湖を渡り、放浪の旅へと出ます。


 それは社会的な敗北のように見えて、実は彼女たちが自ら選び取った自由への道でした。それ以降、二人は放浪者として、どこかで、自分たちだけの物語を紡ぎ続けているという伝説を残して物語は幕を閉じます。

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