PR

ナンシー・ミットフォード『愛の追跡』解説あらすじ

ナンシー・ミットフォード
記事内に広告が含まれています。

始めに

ナンシー・ミットフォード『愛の追跡』解説あらすじを書いていきます。

ナンシーの作家性

 ナンシーにとって、同世代の風刺小説家イーヴリン・ウォーは親友であり、生涯にわたる最大の文学的メンターでした。ナンシーの初期の作品は、ウォーの傑作『大転落』に強い影響を受けて書かれました。 2人は戦後もお互いの作品の原稿を送り合い、熱心に批評を交わしました。ウォーの持つ、冷徹で容赦のない上流階級への風刺センスは、ナンシーのおかしな貴族たちを愛を込めて小気味よくからかうスタイルに大きな影響を与えています。


 ​1920〜30年代のロンドンで奔放に楽しんだ若き貴族や芸術家たちの社交界グループ「ブライト・ヤング・シングス(Bright Young Things)の中心人物の一人がナンシーでした。​アンソニー・パウエルやヘンリー・グリーンら同時代の作家たちと同様に、ナンシーもまた、自分たちが身を置く華やかでどこか危うい上流社会の人間模様、結婚、政治、そして戦争による階級社会の変容を、内側からの鋭い観察眼で捉えて小説に昇華させました。


​ ​ナンシー・ミットフォードの小説は、しばしば19世紀のイギリス古典文学の巨匠たちと比較されます。 軽妙なユーモア、機知、そして上流階級の家庭劇や恋愛・結婚を主なテーマにする点において、オースティンの直系とも言える影響が見られます。ナンシーの客観的で迷いのないクリアな語り口は、トロロープの写実的なスタイルに通じるものがあると批評家から指摘されています。


 ​ミットフォード姉妹の父親は女性にまともな教育は不要という極端な考えを持っていたため、ナンシーは学校にほとんど通わせてもらえませんでした。​そのため、彼女の文章の基盤は自宅の図書室で貪るように読んだ歴史的な伝記、回顧録、往復書簡によって作られました。この読書体験が、のちに彼女が小説から『ポンパドゥール夫人』や『恋愛中のヴォルテール』といった、フランスの宮廷や哲学者をテーマにした優れた歴史伝記の執筆へと転向するきっかけです。


 作家だけでなく、当時の近隣住民だった貴族・作曲家・風刺小説家のロード・バーナーズも、彼女のユーモアのセンスや、登場人物(『愛の追跡』に登場する風変わりな美大名メルリンのモデル)に決定的な影響を与えました。

タイトルの意味

 ​タイトルが示す通り、最大のテーマは主人公リンダ・ラドレットが生涯をかけて行う完璧な愛の追跡です。リンダは非常にロマンチックで情熱的な女性であり、退屈な最初の夫(銀行家の息子)、理想主義に生きる2番目の夫(共産主義者)との失敗を経て、最終的にフランス人貴族ファブリスという真実の愛にたどり着きます。しかし、彼女が追い求めた至上の愛は、第二次世界大戦という時代の荒波によって引き裂かれ、最終的に悲劇的な結末を迎えます。


 ​物語は、リンダの従姉妹であるファニーの視点(語り手)から描かれます。この二人の対比は、当時の女性の生き方や幸福論についての重要なテーマとなっています。​リンダは衝動的で、スキャンダルを恐れず、常にドラマチックな愛と自由を求める「動」の女性です。​ファニーは堅実で、オックスフォードの学者と結婚し、穏やかで退屈とも言える安定した家庭生活を送る「静」の女性です。​作者はどちらの生き方を一方的に正しいと肯定するわけではありません。ファニーの目を通じて、リンダの奔放さにハラハラしつつも憧れを抱き、同時にファニー自身の持つ地味な幸福の価値も描き出すことで、女性にとっての自立と幸福の多様性を浮き彫りにしています。

文明批評

 ラドレット家(作者ミットフォードの風変わりな実家がモデル)の面々は、極端な偏屈さと個性に溢れています。特にリンダの父親であるマシューおじさんは、外国人とインテリを激しく嫌い、娘たちを厳しく縛り、お気に入りの鞭を自慢する猛烈な男ですが、どこか憎めない愛嬌を持っています。ナンシー・ミットフォードは、自分たちが属するイギリス上流階級の閉鎖性や時代錯誤な奇行をユーモアたっぷりに風刺しまい。


​ ​物語の背景には、不穏な1930年代の政治情勢(大恐慌、スペイン内戦、ファシズムの台頭)から、第二次世界大戦へと突入していく激動の時代があります。戦争は、ラドレット家が守ってきたカントリーハウスの生活を激変させ、登場人物たちの運命を翻弄します。リンダの愛したファブリスもレジスタンスとして戦死します。

物語世界

あらすじ

 ​オックスフォードシャーの田舎にあるラドレット家の屋敷「アルコンリー」。偏屈で猛烈な父親マシューおじさんのもと、リンダやファニーたち子供はまともな教育も受けさせてもらえず、世間から隔絶されて育ちます。少女たちの唯一の関心事はいつか現れる完璧な白馬の王子様。特にロマンチックなリンダは、まだ見ぬ真実の愛への妄想を膨らませていました。


​ ​社交界にデビューしたリンダは、すぐに若く裕福な銀行家の息子トニー・クロッサーと恋に落ち、周囲の反対を押し切って結婚します。しかし、トニーの実家は絵に描いたような保守的で俗物的な家庭でした。リンダは娘を出産するものの、退屈で心の通わない結婚生活に耐えられなくなり、やがて育児も放棄して家を飛び出してしまいます。


​ ​次にリンダが出会ったのは、熱狂的な共産主義者の知識人クリスチャン・タルボットでした。トニーとは真逆の思想に生きる男に惹かれたリンダは、彼と再婚します。リンダは彼を支えるため、不慣れな労働者階級の生活に身を投じ、スペイン内戦の難民キャンプを支援するために現地へも赴きます。しかし、クリスチャンにとって最も大事なのは人類のイデオロギーであり、リンダ個人への愛ではありませんでした。やがてクリスチャンは別の女性のもとへ去り、リンダは再び深く傷つきます。


​ ​2度の結婚に失敗し、心身ともに疲れ果てたリンダは、フランスのパリへ向かいます。荷物を失くして駅のベンチで泣いている彼女を救ったのが、洗練された大富豪のフランス人貴族、ファブリス・サヴェラン(公爵)でした。ファブリスは絵に描いたようなプレイボーイでしたが、二人は激しい恋に落ちます。リンダはパリのアパルトマンで彼の愛人となり、生まれて初めて自分が心から愛し、自分を甘やかして無条件で愛してくれるという完璧な真実の愛を手に入れ、短い黄金期を過ごします。


​ ​しかし、第二次世界大戦の足音が二人の幸福を切り裂きます。ナチス・ドイツの足音が迫る中、リンダはファブリスによってイギリスへ送り返されます。イギリスに戻ったリンダは、ファブリスの子を身ごもっていることに気づきます。やがて戦争が激化し、ファブリスはフランスのレジスタンスに参加しますが、最前線で捕らえられ、銃殺されてしまいます。


 ​ファブリスの死を知らぬまま、リンダは男の子を出産します。しかしその直後、彼女自身も産後の合併症でこの世を去ってしまうのでした。残されたリンダの赤ちゃんは、ずっと彼女を見守り続け、自身も穏やかな家庭を築いていた従姉妹のファニーによって引き取られ、育てられるところで物語は幕を閉じます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました