始めに
ワイルド『ドリアン=グレイの肖像』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
古典主義
ダブリン大学トリニティ・カレッジ、次にオックスフォード大学マグダレン・カレッジで学び、古典を学んだワイルドでした。ワイルドは、ウォルター・ペイターとジョン・ラスキンが中心となる、ギリシア・ローマ文学やルネサンス芸術に着目する古典主義的ムーブメントから、多大な影響を受けました。
また、シェイクスピアなどのイギリス=ルネサンス演劇からも大きな影響を受け、本作も『ハムレット』に言及があります。
性格悲劇
シェイクスピアの四大悲劇は、主人公の野心や不義理、猜疑心などの悪徳が原因となって主人公が破滅していく傾向があるため、性格悲劇と形容されます。
本作も、性格悲劇としてのテイストが濃厚です。主人公のドリアン=グレイは、他人に影響されやすい性分で、ヘンリー卿の快楽主義に感化されて無軌道な生き方をして、他者を傷つけ、それに対する報いを受けていきます。
分身譚として
本作は分身譚となっており、バジルという友人が描いたドリアン=グレイの肖像画が、ドリアンが悪徳をするたびに醜くなっていきます。ドリアンは人を殺めたり自殺させたりと不義理をし、そのたびに肖像画は歪みます。また、老いもこの肖像画が引き受けてくれていたため、ドリアンは老いることがありませんでした。
しかし、最後は分身たる肖像画を破壊して、自らが死にます。
物語世界
あらすじ
友人の画家バジルのモデルとなった美青年ドリアン・グレイは、逆説家ヘンリー卿の若さと美、奔放な生活への賛美芸術に影響され、肖像画を前に、肖像画のほうが歳をとればいいのに、と言います。
ヘンリー卿に習う生き方を始めるドリアンは、若い舞台女優シビルと恋して婚約します。本当の恋を知り平凡な女優になったシビルをドリアンは幻滅し捨てます。
その日、ドリアンはバジルから貰った自分の肖像画が醜くなっていて動揺します。シビルが自殺したのにヘンリー卿とオペラを見に行くドリアンをバジルは非難し、例の肖像画について尋ねます。驚いたドリアンは肖像画を屋根裏部屋に隠しました。
それから20年後。バジルは、ドリアンの官能主義の真偽を確かめようと、彼の家を訪ねます。ドリアンは噂を肯定し、例の肖像画を見せます。醜く変貌した肖像画を見て責めるバジルをドリアンは殺してしまい、死体の始末を、弱みを握っている科学者に強います。
やがてドリアンは麻薬に溺れアヘン窟に出入りし、シビルの弟ジェイムズに殺されそうになります。ジェイムズはドリアンの若さを見て人違いを謝るものの、直後ドリアンが老いなくなったことを知り、郊外でのパーティーまでドリアンを追いかけます。しかしジェイムズはそこで兎狩りの誤射で死にます。
ドリアンは心を入れ替えようとするものの、ヘンリー卿に笑われます。ますます醜悪になった肖像画を見てドリアンは見ると、自分のさらに醜い姿が見えます。そこから、ドリアンは、改心の動機は虚栄心と好奇心、そして絵に美しさを取り戻そうという願望にすぎなかったことを知ります。
この肖像画は自分の良心だと知ったドリアンは絵を破壊しようとします。悲鳴を聞いて駆けつけた者は、美青年の肖像画と醜い老人の死体を目にしました。
参考文献
・宮崎かすみ『オスカー・ワイルド – 「犯罪者」にして芸術家』
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