芥川龍之介「奉教人の死」解説あらすじ

芥川龍之介

始めに

 芥川龍之介「奉教人の死」解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

アナトール=フランス、森鴎外流のヒューマニズムとリリシズム

 芥川龍之介はアナトール=フランスからの影響が顕著で、そこから合理主義的科学的ヒューマニズムを展開していきました。『地獄変』に描かれるテーマを芥川自身の芸術至上主義を体現するものではないと、以前そちらの記事に書きましたが、芥川龍之介は倫理やモラルを重視するヒューマニストです。そこから、人間の価値的、倫理的実践である宗教に着目したのでした。

 フランスもキリスト教徒ではないものの、キリスト教に関心を持ち続けていて、芥川もキリストやキリスト教を描く作品が本作のようにしばしばあります。

 またロマン主義的なリリカルな意匠は手本とした森鴎外からの影響が顕著です。

オスカー=ワイルド、ショーのシニズム

 また芥川龍之介ら新思潮派の作家は、ショーやワイルド(『サロメ』『ウィンダミア卿夫人の扇』)といった英国の演劇から顕著な影響を受けています。

 本作もショーやワイルドを思わせる、シニカルな文明批評の眼差しが特徴です。

モデルになった聖人

 本作のモデルはビテュニアのマリーナです。『レゲンダ・アウレア』の英語抄訳版と、スタイシェン著『聖人伝』を参照したとされます。

 マリーナについて。マリーナの父親が修道院に入ることになった為、父親はマリーナを男装させ一人息子として一緒に修道院に入り、マリーナはマリノスとして偽名を使います。ある日、仕事で泊まった家の娘がとある騎士の子供を宿し、娘はマリノスに犯されたからだと嘘を言います。マリノスは罪を認め、修道院の外に追放され、乞食となり、娘の子を引き取り、のちに修道院に戻され、下働きをします。マリノスの死後、修道士たちが遺体を洗うとき、マリノスが女性であったと判明します。

 大まかな流れは「奉教人の死」と共通するものの、娘との恋愛要素(片思いされる)の追加、性別誤認のサプライズ、火事におけるろあれんぞの犠牲は、芥川独自の脚色です。

物語世界

あらすじ

 長崎の教会「さんた・るちあ」に、「ろおれんぞ」という美少年がいました。彼は素性を明かさず、その信仰は篤いのでした。

 ところが、彼に不義密通の噂が立ちます。教会に通う傘屋の娘が、彼と恋文を交わしているというのでした。長老衆はろおれんぞを問い詰めるものの、彼は涙声で潔白を訴えるばかりでした。

 ほどなく、傘屋の娘が妊娠し、父親や長老の前で腹の子の父親はろおれんぞと宣言します。ろおれんぞも姦淫の罪により破門され、教会を追放されます。その境遇にあっても、ろおれんぞは教会へ足を運び祈ります。一方、傘屋の娘は女の子を産みます。

 そんなある日、長崎の町が大火に遭います。傘屋の翁と娘は、赤子を燃える家に置きざりにしたことに気がつき、半狂乱となります。そこでろおれんぞが、炎の中に飛び込みます。ろおれんぞは、赤子を救ったものの燃える梁に押しつぶされ、瀕死になります。

 傘屋の娘は、伴天連に対し、赤子の真の父親は隣家の「ぜんちよ」(異教徒)で、ろおれんぞへの嫉妬から嘘をついていたことを懺悔します。

 口々に「まるちり」(殉教)と声を挙げる奉教人衆は、焼け破れたろおれんぞの衣の隙間からは、乳房を見ます。ろおれんぞは女でした。

参考文献

・進藤純孝『伝記 芥川龍之介』

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