始めに
芥川竜之介「鼻」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
アナトール=フランス、森鴎外流のヒューマニズムとリリシズム
芥川龍之介はアナトール=フランスからの影響が顕著で、そこから合理主義的科学的ヒューマニズムを展開していきました。『地獄変』に描かれるテーマを芥川自身の芸術至上主義を体現するものではないと、以前そちらの記事に書きましたが、芥川龍之介は倫理やモラルを重視するヒューマニストです。
またロマン主義的なリリカルな意匠は手本とした森鴎外からの影響が顕著です。
オスカー=ワイルド、ショーのシニズム
また芥川龍之介ら新思潮派の作家は、ショーやワイルド(『サロメ』『ウィンダミア卿夫人の扇』)といった英国の演劇から顕著な影響を受けています。
本作もショーやワイルドを思わせる、シニカルな文明批評の眼差しが特徴です。
作品のテーマ。利他と利己
本作が寓話として伝えようとするのは、人間は他人の不幸に同情しますが、一方で不幸を切り抜けると、他人は物足りなくなり、その人を再び同じ不幸に陥れたくなり、その人に敵意さえ抱くようになる、ということです。
人間は誰しも利他的感情を持っていますが、他者への利他的感情が同情で満たせなくなると、相手に満足できなくなり、対象を陥れたり敵意を抱いたりするようになってしまうのだと、作品は伝えようとします。
物語世界
あらすじ
池の尾の僧である禅智内供は五、六寸の長さのある鼻を持ち、人々にからかわれていました。内供は自尊心を傷つけられていたものの、鼻を気にしていることを知られたくないので、気にしないふりをします。
ある日、内供は弟子を通じて医者から鼻を短くする方法を知り、その方法によって鼻を短くすることに成功します。
しかし、数日後、短くなった鼻を見て笑う者が現れます。内供は初め、自分の顔の変化のせいだと思おうとするものの、日増しに笑う人が増え、前よりもずっと馬鹿にされているように感じます。
人間は他人の不幸に同情しますが、一方で不幸を切り抜けると、他人は物足りなくなり、その人を再び同じ不幸に陥れたくなり、その人に敵意さえ抱くようになると、語り手は言います。
一層笑われるようになった内供は自尊心が傷つき、鼻が短くなったのを恨めしく思います。
ある夜、内供は鼻がかゆく眠れなくなります。その翌朝、鼻に懐かしい感触が戻ります。鼻が元の滑稽な長い鼻に戻っていました。内供はもう自分を笑う者はいなくなると思うのでした。
参考文献
・進藤純孝『伝記 芥川龍之介』
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