漱石『二百十日 』解説あらすじ

夏目漱石

始めに

 漱石『二百十日 』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

英露のリアリズム

 夏目漱石は国文学では割と珍しく(露仏米が多い印象です)、特に英文学に創作のルーツを持つ作家です。特に好んだのは、英国のリアリズム作家(オースティン[『傲慢と偏見』]、ジョージ=エリオット、H=ジェイムズ[『ねじの回転』『鳩の翼』])でした。『三四郎』『それから』『こころ』『行人』『明暗』などの代表作も、そのような英国の心理リアリズム描写を範としますし、本作も同様です。

 またロシア文学のリアリズムからも影響され、ドストエフスキー(『罪と罰』)などに似た心理リアリズムが展開されます。

 とはいえ、本作はまだ『三四郎』などで作風が定まる前で、この時期の作品は割とローレンス=スターンの形式主義の影響が大きいです。

スターンの形式主義的実験

 漱石はローレンス=スターン作品からの影響が顕著とされています。

 本作も、スターン『トリストラム=シャンティ』のような、筋らしい筋のない物語として展開されています。物語は脱線を繰り返しつつ展開していき、このあたりは『吾輩は猫である』と重なります。

江戸文芸の残滓

 本作はまだ、漱石が英国心理リアリズムをリファレンスして作風を確立する前の作品で、江戸文芸の影響が顕著です。 

 江戸文芸には、滑稽本というジャンルがあり、これは江戸時代後期の戯作の一種で、ユーモアや言葉遊びなどを特徴としますが、本作もそのようなジャンルの延長線上にあり、ユーモアと文明批評をコンセプトとしています。

 一九『東海道中膝栗毛』などが滑稽本では有名ですが、本作も阿蘇山に登る、2人の青年、圭さんと碌さんの道中記を、二人の会話により展開します。

ホイットマン的なロマン主義とピカレスク

 漱石に影響した英米文学は、ピカレスクというスペインの文学ジャンルからの影響が顕著です。ピカレスクは、アウトローを主人公とする文学ジャンルです。ピカレスクは「悪漢小説」とも訳されますが、傾向としてピカレスクの主人公は悪人ではなく、アウトローではあっても、正義や人情に篤く、その視点から世俗の偽善や悪を批判的に描きます。高倉健のヤクザ映画みたいな感じで、主人公はアウトローだけど善玉、みたいな傾向が強いです。

 このピカレスクから英文学は顕著な影響をうけ、しかしフィールディング『トム=ジョーンズ』などを皮切りに、ピカレスクに刺激されつつも、それを英文学固有の表現として継承していきました。デフォー『モル=フランダーズ』なども有名です。

 そうした土壌の上でディケンズ『デイヴィッド=カッパーフィールド』やトウェイン『ハックルベリー=フィンの冒険』も展開されました。本作もそれらの作品を思わせる、ピカレスク的な要素を孕み、『坊っちゃん』と重なります。華族や金持ちへの主人公の圭さんの憤りが語られ、最後はいつか華族や金持ちを打ち倒すことと、阿蘇山への再挑戦を誓うのだったもう一人の主人公の碌さんと違います。

 また漱石が好んだホイットマン的なプラグマティズム、ロマン主義が特徴的です。

物語世界

あらすじ

 阿蘇山に登る、2人の青年、圭さんと碌さんの2人の会話で展開されます。

 さまざまなことが語られ、チャールズ・ディケンズの『二都物語』などに言及しながら、華族や金持ちへの圭さんの憤りが語られます。

 2人は阿蘇の各地を巡り、阿蘇山に登ろうとするものの、嵐に遭って頓挫し、宿場に戻ります。

 2人は、華族や金持ちを打ち倒すことと、阿蘇山への再挑戦を決意します。

参考文献

・十川信介『夏目漱石』

・佐々木英昭『夏目漱石』

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