カフカ「流刑地にて」解説あらすじ

フランツ=カフカ

始めに

カフカ「流刑地にて」解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

幻想文学とリアリズム。ロマン主義と写実主義の影響

 カフカはホーフマンスタール、ゲーテ(『ファウスト』)などの象徴主義、ロマン主義といった幻想文学からの影響が顕著です。加えてフローベール(『ボヴァリー夫人』)、ドストエフスキーなどの写実主義の作家からの影響が顕著です。

 ドストエフスキーは初期には特に前中期のゴーゴリ(「」「外套」)からの影響が強く、ロマン主義文学として端正なスタイルで作品を展開していました。『貧しき人々』『分身』がこうした時期の作品で有名ですが、カフカの作品はドストエフスキーが『罪と罰』などで独特のリアリズムを展開するよりも前の、この時期の作品と重なります。

ドストエフスキー『分身』的心理劇

 またドストエフスキー『分身』は幻想文学としてのファンタジックなモチーフと絡めて、風習喜劇的なリアリスティックな心理劇を展開した内容になっています。『分身』の主人公ゴリャートキンの分身は主人公を出し抜き劣等感を抱かせ、最終的な破滅へと導きます。分身の正体はゴリャートキンの妄想という解釈もすることができますが、正体は分かりません。

 カフカもこうした、ファンタジーなどの非現実的な要素と絡めてリアリズムを展開する手腕に長けています。この辺りはヴォネガット(『スローターハウス5』『タイタンの妖女』)やドストエフスキーとカフカを愛したハイスミス(『ふくろうの叫び』『太陽がいっぱい』)などと重なります。

象徴性、象徴主義

 カフカ作品は『城』『審判』など、何らかの象徴性を帯びているようなファンタジックな内容の作品が多く、本作においても同様です。これはホーフマンスタールの象徴主義からの影響が顕著です。

 とはいえカフカ作品における象徴や寓意性はジョイス『ダブリン市民』やベケット『ゴドーを待ちながら』における象徴的な手法にも似て、特定のテーマや意味に還元できるようなシンプルな象徴的な物語としてデザインされている訳ではありません。象徴的な内容でありつつ、それが何の象徴であるかは明示されないことから、多様な解釈に開かれています。

物語世界

あらすじ

 学術調査の旅行家が流刑地での処刑の立会いに招かれます。ここでは処刑に特別な拷問機械を用いており、旅行家は処刑される囚人の傍で、将校から機械の説明をされます。

 機械を使用するには、下のほうの《ベッド》に囚人を腹ばいにし、上部の《製図屋》の中で組み合わされた歯車によって、《製図屋》の下に付けられた《馬鍬》という鋼鉄製の針が動き、囚人の体にその罪に沿った判決を刻みす。処刑には12時間かかり、最後に囚人は死体となります。

 機械は前任の司令官に作られ、将校には思い入れがあります。この機械による処刑は批判が強く、存続の危機にあるそうです。将校はこの機械の存続にひと肌脱いでくれないかと旅行家に頼みます。しかし機械の非人間性を感じていた旅行家は、きっぱりと断ります。

 すると将校は縛り付けられていた囚人を放し、《製図屋》の中身を入れ替えて、自分が裸になりその機械に横たわり機械を作動させます。しかし機械は壊れ始め、《馬鍬》はわずかな時間で将校を串刺しにします。

参考文献

谷口茂『フランツ=カフカの生涯』(潮出版社.1973)

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