始めに
コクトー『恐るべき子供たち』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
シュルレアリスムの。ジュヴナイル。青春残酷物語
シュルレアリスムのコクトーの本作はティーンの世界を描いたグランギニョルな青春物語です。また、シュルレアリストのブルトンは既成の芸術やブルジョア社会へのカウンターとして、実際の若い犯罪者に着目するなどし、モローの絵画に描かれるファム・ファタル表象に着目しました。
シュルレアリスムの影響が顕著な三島由紀夫の『金閣寺』や中上健次(『千年の愉楽』)の永山則夫への着目もこうしたモードの中にいて、グランギニョルな青春物語を展開しました。同様に、コクトーが先鞭をつけたアート映画ジャンルにおけるヌーヴェルバーグのゴダール監督もこうしたモードの中で『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』のような青春残酷物語を展開しました。
本作はこのようなモードを形成したエポックメイキングな作品です。
四角関係
本作は四角関係のなかでの破滅的な恋愛劇が展開されていきます。
ダルジュロスという悪魔的な、ファム・ファタル的な男に惹かれるポール、ポールに依存する姉のエリザベス、破滅的な性格のダルジュロス、ダルジュロスによく似たアガート四人の関係を描きます。
さまざまな信念や選好を抱えるエージェントの戦略が交錯する中で、当事者にとって破滅的な結末がもたらされるデザインは谷崎『卍』、H=ジェイムズ『鳩の翼』、漱石『こころ』、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』を連想します。
物語世界
あらすじ
ポールはダルジュロスに憧れていました。しかしポールは、ダルジュロスの姿をかいまみた途端に彼が投げた石の入った雪球で胸をやられ、気絶します。
ポールの姉エリザベートは、負傷して帰ってきた弟と、つきいの友人ジェラールを家に迎えいれることを耐え難く思います。姉と弟の世界を侵されるのが嫌でした。
やがてポールの健康は回復したものの、例の雪合戦事件のせいでダルジュロスは放校になります。母が死んだのはそれから間もなくでした。エリザベートはファッションモデルとして働きます。彼女は仲良くなったモデル仲間のアガートを家に連れてくるようになります。アガートはダルジュロスに酷似した少女でした。ポールはアガートを愛したものの、彼女を無理に遠ざけます。
やがてエリザベートは、金持ちのアメリカ人マイケルと結婚するものの、マイケルは自動車事故死を遂げます。それ以来、エリザベートはポールにますます依存します。
ある夜、ポールはアガートに愛の手紙を書きます。しかしその手紙がエリザベートの手に渡ってしまいます。エリザベートはポールに、アガートはお前など愛していない、やがてジェラールと結婚するだろう、と言い、ポールへの愛に懊悩するアガートにはジェラールと結婚するべきだと説得します。そうしてアガートとジェラールは結婚します。
偶然、ジェラールは新婚旅行の旅先でダルジュロスに会い、そのとき託されたダルジュロスの毒薬をポールに手渡します。それは少年時代、ポールがダルジュロスにあげた宝物でした。エリザベートは、ポールが今、その宝物を飲みほして、自分も死ぬことだけが二人の奇蹟の完結なのだと信じました。
エリザベートの予想どおり、やがてポールはその毒薬を飲みます。ポールの手紙を受けとったアガートはエリザベート邸にかけつけたものの、手遅れでした。エリザベートはポールの死を確認すると、自らも後を追いました。
コメント