はじめに
大江健三郎『同時代ゲー厶』解説あらすじを書いていきます。『M/Tと森のフシギの物語』にリメイクされます。
背景知識、語りの構造
等質物語世界語り手
語り手の主人公はメキシコの大学に在籍する講師です。メキシコ滞在中に、神主だった父親の仕事「村=国家=小宇宙」の神話や歴史を書くことを受け継ぐ決意をします。
プラグマティックな歴史記述
フレイザー『金枝篇』がT=S=エリオット『荒地』に導入されて以降、作家は語りの手法に民俗学、社会学的アプローチをも積極的に取り入れるようになっていきました。特に本作でも用いられているアナール学派的な、中央の事件史に抗する心性史としての歴史記述のアプローチは、ガルシア=マルケス『族長の秋』『百年の孤独』などラテンアメリカ文学などとモードを共有します。
旧来的な中央の事件史としての歴史記述においては、歴史の構造的理解に欠き、そこから捨象される要素が大きすぎましたが、アナール学派は特定のトポスに焦点を当てたり、ミクロなアクターの視点に注目したりして、歴史の構造的把握と、歴史を構成するアクターの単位の修正を図りました。本作も同様に、ミクロな歴史的アクターの一人称的視点に着目しつつ、その集積物として歴史を構造的にとらえようとするプラグマティックな歴史記述のアプローチが見えます。
歴史の中のミクロなアクターの視点、語りを通じて歴史を記述、再構築しようとするアナール学派的アプローチは、小説家にとっても強力な武器となったのでした。
本作も山口昌男の影響が顕著です。
中心と周縁
たとえば中上健次が自身の出生も相まって部落のコミュニティや韓国、朝鮮を描いた背景とも共通しますが、そこにあるのはオンタイムの社会学、歴史学の動向です。
国家や帝国の矛盾や不正義を暴き、中心化を妨げる存在に焦点を当てるアプローチは、アナール学派のような心性史的な歴史学の潮流の動向と相まって、ポストコロニアル文学、批評に影響しました。中上健次に影響した網野善彦の「聖/俗」(デュルケーム由来ですが)「無縁」概念、大江健三郎に影響した山口昌男の「中心/周辺」概念などが典型的です。
本作における「村=国家=小宇宙」は世俗の中心の秩序の周縁的なトポスであり、中心の秩序の転覆の契機となっています。さまざまなネーションの歴史が無秩序に流入する空間で、混沌とした世界になっています。ちょうど中上健次『千年の愉楽』に描かれる世界に似ています。
物語世界
あらすじ
語り手の主人公はメキシコの大学に在籍する講師です。メキシコ滞在中に、神主だった父親の仕事「村=国家=小宇宙」の神話や歴史を書くことを受け継ぐ決意をします。
主人公の故郷である「村=国家=小宇宙」は徳川期に権力から逃れた脱藩者により四国の山奥に創建されました。明治維新以後「村=国家=小宇宙」は租税や徴兵に抵抗するため「二重戸籍」の仕組みを持っていました。しかしこの仕組みが露見します。ここから「五十日戦争」に発展します。
参考文献
小谷野敦『江藤淳と大江健三郎』(筑摩書房)
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