村上春樹『街とその不確かな壁』解説あらすじ

村上春樹

始めに

始めに

 今日は村上春樹の新作、『街とその不確かな壁』のレビューを書いていきたいと思います。

語りの構造、背景知識

等質物語世界の「僕」「私」、三部構成

 この作品は等質物語世界の語り手で少年時代の「僕」、現代の「私」に焦点化がなされます。第一部は少年時代の過去の回想の物語、第二部と三部は40代の現在の物語です。

 本作品は『世界の終わりとハードボイルド=ワンダーランド』と似ていて、普遍的無意識の世界である壁のある町と現実での出来事が描かれるのですが、第二部で「僕」は半身を失って、影のほうが現実に帰還しています。そして第三部では統合がなされ…という流れです。

永遠の少年と少女

 この作品では「きみ」と呼ばれる少女が壁の町へと主人公を誘います。「僕」は「きみ」という存在に恋焦がれています。いわばこの作品は、永遠の淑女ベアトリーチェのような存在である「きみ」との関係を描く、『神曲』パロディのような作品です。

 「きみ」はシリーズにおける直子(『1973年のピンボール』『ノルウェイの森』)などと重なる部分があります。直子で対する自殺のトラウマは、本作は恋愛感情としてリメイクされています。

「ぼく」の再生の物語

 この作品は『世界の終わりとハードボイルド=ワンダーランド』の双子のような物語ですが、やや違っているのはこれが僕の再生の物語であるという点です。

 『1973年のピンボール』『ノルウェイの森』の語り手のように、「きみ」に縛られて囚われていた主人公が現実世界へと回帰し、精神的自由と自律を獲得するプロセスが描かれています。

パラレルワールド

 本作はパラレルワールドSFになっています。

 春樹文学では『世界の終りとハードボイルド=ワンダーランド』『1Q84』『スプートニクの恋人』などがパラレルワールドSFの代表格です。

 恋する相手を探しにパラレルワールドへ向かおうとするプロットは特に『スプートニクの恋人』とも重なります。

物語世界

あらすじ

第一部

少年時代の「僕」は「きみ」に誘われて壁の町へと至ります。そして、僕は半身だけ現実世界に帰還します。

第二部

第一部の最後に「街」から現実へと帰還した「影」の物語です。四十五歳の「影=私」は、町営図書館の館長の仕事に就いています。

図書館に通うサヴァン症候群であるイエロー=サブマリンの少年から、街の壁が「終わらない疫病」を防ぐために作られたことを知ります。街のことをよく知るその少年は、現世を離れ、その街で古い夢を読みたいと言います。そしてある日、失踪します。

第3部

イエロー=サブマリンのパーカーを着た影のない少年に、主人公は「夢読み」の仕事を託し、少年と主人公は「一体化」します。
 

登場人物

  • 「僕」「私」:語り手。少年時代から現在まで「きみ」に恋焦がれている。
  • 「きみ」:主人公の心をとらえて離さない少女。
  • イエローサブマリンの少年:現在の現実に登場する少年。行方不明になる。

総評

中間小説路線。ファンなら楽しめるかも…

 かなり水っぽく食傷気味ですが、ファンなら楽しめる内容かもしれません。

関連作品、関連おすすめ作品

・ゲーテ『ファウスト』:永遠の淑女をめぐるドラマ

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