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村上龍『限りなく透明に近いブルー』解説あらすじ

村上龍
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始めに

最近村上龍の新作『ユーチューバー』が発表されました。それを記念して、今回は龍の代表作、『限りなく透明に近いブルー』をレビューしていきます。

語りの構造、背景知識

中上健次、セリーヌ、ジュネなどモダニズムの影響。シュルレアリスム。ドラッグカルチャー

 村上龍は中上健次(『千年の愉楽』)や、彼が好んだセリーヌ(『夜の果てへの旅』)、ジュネなどのモダニズム作家、シュルレアリスム作家からの影響が顕著です。

この作品も、東京の基地のある街福生を舞台に、ドラッグや乱交に明け暮れる若者の自堕落な姿が描かれます。さながら石原慎太郎『太陽の季節』のように、その社会風俗描写のセンセーショナルな要素を持って世間に衝撃を与えたのでした。

ゴダール『勝手にしやがれ』のように「アメリカの影」を描く

「基地のある街」というモチーフは龍の文学の特徴ですが、ここにはゴダール監督『勝手にしやがれ』の影響を感じさせます。ゴダールはブレヒトという表現主義演劇、叙事演劇からの影響が顕著なのですが、ブレヒトにも『都会のジャングルにて』などアメリカを舞台とする作品があり、第一次大戦後ドイツに借款などでアメリカ資本が流入し、社会や都市に「アメリカ」が浸透、侵食してきた結果によるものでした。同様に『勝手にしやがれ』は第二次対戦後のフランスで、アメリカのギャング俳優に憧れる青年を中心として、ネーションの伝統とアイデンティティが薄れ、伝統と公共性なき「アメリカ」の影が社会を覆う様を描く、ポップアート作品でした。

 同様の手法で、基地というモチーフを取り入れることで龍は、そこにアメリカの影を描きます。戦後日本にアメリカ資本や文化が流入し、その中で退廃的な生活を送る若者の姿が描かれています。また、龍に影響した中上健次(『千年の愉楽』)、盟友・柄谷行人がドゥルーズから影響が顕著であったこともそうした表象に手伝っているでしょう。

戦争機械としての基地のある街の若者たち

 ドゥルーズは哲学者というよりはまあ思想家で、中上健次やその盟友柄谷行人への影響が顕著で、龍の作品テーマとも共通性が見出せます。

 ドゥルーズは「戦争機械」という概念を打ち立てました。これはざっくりいうと、国家やシステムの中心化を妨げるようなメカニズム、ネットワークで、ポストコロニアル批評、文学に示唆を与えました。中上健次が自身の出生も相まって部落のコミュニティや韓国、朝鮮を描いたのもそうですが、国家や帝国の矛盾や不正義を暴き、中心化を妨げる存在に焦点を当てるアプローチは、アナール学派のような心性史的な歴史学の潮流の動向と相まって、ポストコロニアル文学、批評に影響しました。中上健次に影響した網野善彦の「聖/俗」(デュルケーム由来ですが)「無縁」概念、大江健三郎に影響した山口昌男の「中央/周辺」概念などが典型的です。

 同様に基地の街という龍の文学のモチーフは、アメリカ帝国や日本に内在するコミュニティでありながら、その伝統と公共性なきアメリカの退廃を糾弾し、中心化を妨げるようなトポスとして描かれています。

若書きではある

 この作品は同時代の風俗を描いたものとして確かな筆力を感じさせ読み応えはありますが、流石に処女作というのもあって、若書きです。

龍の作家としてのスタイルは『コインロッカー=ベイビーズ』『愛と幻想のファシズム』で確立します。

物語世界

あらすじ

 基地の町、福生。ここにあるアパートの一室、通称ハウスで主人公リュウや複数の男女がドラッグやセックスに明け暮れ、退廃的な暮らしを送っています。

 しかしコミュニティでは喧嘩や自殺未遂が起こり、部屋から仲間たちは消えていきます。

 恋人のリリーと二人きりになったリュウは、ドラッグで錯乱し、自分を抑圧する巨大な鳥の存在を幻視します。あの鳥を殺さないと自分が殺されるという妄想のまま部屋を飛び出します。

 そして、外で草むらに倒れるリュウ。ポケットには割れたグラスの破片が入っています。破片に反射した夜明けの光を見て、自分は透明に近いブルーになりたいと思います。

参考文献

・宇野邦一『ドゥルーズ 流動の哲学』(2020)

・高山文彦『中上健次の生涯 エレクトラ』

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