夏目漱石『三四郎』解説あらすじ

夏目漱石

はじめに

夏目漱石『三四郎』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

英露のリアリズム

 夏目漱石は国文学では割と珍しく(露仏米が多い印象です)、特に英文学に創作のルーツを持つ作家です。特に好んだのは、英国のリアリズム作家(オースティン[『傲慢と偏見』]、ジョージ=エリオット、H=ジェイムズ[『ねじの回転』『鳩の翼』])でした。『三四郎』『それから』『こころ』『行人』『明暗』などの代表作も、そのような英国の心理リアリズム描写を範としますし、本作も同様です。

 またロシア文学のリアリズムからも影響され、ドストエフスキー(『罪と罰』)などに似た心理リアリズムが展開されます。

プラグマティズム

 また、漱石はH=ジェイムズの兄ウィリアムなど、プラグマティズムからも影響されました。これは極めてざっくりいうと、日常言語や日常的実践の世界を分析的に捉えようとする潮流です現代でも推論主義や消去主義のような形で継承されています。

 こうした哲学的潮流に触れることが、日常的な実践への鋭敏な感性を培ったと言えます。

象徴主義、ファムファタール

 本作品は新しい女、平塚雷鳥をモデルとする美彌子がヒロインとして登場し、ファムファタル的なキャラクターとして登場します。ファムファタールとはワイルド『サロメ』などのように、世紀末文学などに典型的に見られ、女性の権利拡大を背景とし、男性の地位を脅かす存在としての女性表象です。

 国内では谷崎『痴人の愛』のナオミが有名ですが、本作もこのようなヒロインに翻弄される三四郎の心理が描かれます。

恋愛のリスクと純潔

 本作では恋愛に付随するリスクを恐れるあまりに新しい女たる美彌子の振る舞いに翻弄される青年三四郎の姿を描きました。とはいえ三四郎が奥手であるあまりに失わずに済んだものが多いのも事実です。

 『それから』においては恋愛、その中でも姦通をすることで主人公はさまざまな社会的絆を損ない、信頼を喪失します。本作においては主人公はアクションを起こしませんでしたが、そのことによって三四郎を取り巻く人間関係の構造に、失恋後も変化がありませんでした。逃げるは恥だが役に立つ、ではありませんが性的な貞操、慎ましさは社会的絆や信頼の安定を保ってくれます。私淑したオースティン『傲慢と偏見』でも駆け落ちという社会的信頼を損ねる行為を相対的に描いています。

物語世界

あらすじ

 東京帝国大学に合格し、故郷の九州から上京した23歳の小川 三四郎。列車に乗り合わせ間違って相部屋にされた女性にも気を遣い、別れ際に度胸がないと言われます。

 三四郎は同郷で理科大学教師の野々宮 宗八を訪ね、帰りに大学構内の池のほとりで里見 美穪子を目にします。

 友人となった佐々木与次郎が「先生」と慕う英語教師広田 萇の引っ越しが決まり、手伝うことになった三四郎は、広田の新居で美穪子と再会し、惹かれます。

 美穪子には兄が2人いたものの、上の兄は亡くなっています。その兄と親友だったのが広田、下の兄と同窓が宗八です。美穪子は野々宮家に出入りしていました。

 三四郎は団子坂の菊人形見物に誘われます。 菊人形見物に繰り出した美穪子、よし子、広田、宗八に同行した三四郎の一行でしたが、美穪子は気分が悪いと言いだして三四郎を連れ出し、一行から離れます。2人がはぐれたことで宗八たちが慌てていると三四郎は心配するも、大きな迷子だから、責任を持ちたがらない人たちだから、とあしらいます。そして、三四郎に「迷子」の英訳として「stray sheep」を教えます。泥濘で三四郎に抱きかかる形で美穪子は倒れます。

 原口のアトリエを訪ねた三四郎は、モデルをしている美穪子と対面。美穪子は疲れた表情を見せ、原口に帰されます。三四郎は、金は口実に過ぎず貴方に会いに来たのだと美穪子に告げます。美穪子は話題を変え、描かれた服装で原口が作品に取りかかった時期が分からないかと三四郎に囁きます。三四郎はそれが美穪子を見初めた時期だったことに気づくも、そこへ見知らぬ若い紳士が現れ、美穪子を車に乗せて去ります。

 演芸会に行き風邪をこじらせた三四郎は、美穪子の縁談が纏まったと与次郎から知ります。相手は宗八でもありません。回復後、三四郎は美穪子宅へ行き結婚するのかと尋ねると、美穪子は「ご存じなの」と、言います。

参考文献

・十川信介『夏目漱石』

・佐々木英昭『夏目漱石』

 

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